研究概要 |
本研究の最終目的は,乾燥環境下にある高山地域において,将来の持続的自然資源の利用と管理の方策を明らかにし,関係国に対して提言を行うことである。南アジアでは,パキスタン北部のフンジェラブ国立公園にあるシムシャール村と公園の外にあるパスー村を主対象地域とした。シムシャール村では,集落が立地する谷と村の人たちが家畜の移牧を行う峠付近とで,気象観測を行った。自然環境の違いから,彼らの生活の基礎となっている移牧が集落周辺では不可能であり,峠付近の放牧地が不可欠であると考えられる。一方シムシャール村は,キーとなる野生動物についての長期的なモニタリングをして,移牧と野生動物保全が同時に成立することを示さねば,国立公園内で彼らの生活の維持を主張することはできない。国立公園の近くに位置するパスー村は,コミュニティ自然保全地域を設けて,トロフィー・ハンティングの導入によって外貨獲得をもくろんでいる。しかしパスー村では,エコツーリズムを導入して,コミュニティ全体にメリットが生じる産業構造を構築することが大事であると結論づけられた。この際,本研究では,カラコルムの地学的資源を有効に利用したジオツーリズムの導入を強調した。ジオツーリズムと生物資源ならびに文化・歴史資源を統合させた,ジオエコツーリズム(地生態学的観光)の開発が,より多くの地域住民にメリットとなる。パミールでは,タジキスタン東部とキルギス南部を対象地域とした。この地域では貧困が大きな問題となっている。貧困ゆえ,野生動物ならびに燃料としての植生がこれまでにない速度で消費されている。こうした貧困地域で自然資源を持続的に利用し,管理するための一つのアプローチとして,カラコルム同様にジオエコツーリズムの導入を進めることが考えられる。本研究では,まず,氷河地形や閉塞湖の湖面変動,動植物分布,自然破壊の現状,観光インフラなどの基礎調査を行った。
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