本年度は、現地の法師と研究者との協力体制を確立することに成功した前課題基盤C(一般)「中国西南の宗教演劇職能集団に伝承される道教およびシャーマニズム儀礼文献の研究」の成果をうけ、2004年に重点的な調査を行った貴州省道真県河口郷について、一昼夜全ての画像をデジタル化して整理し、即座に画像を呼び出せる状態にして夏の聞き取り調査に臨んだ。法師達に対しての聞き取りでは、調査メンバーを二班に分け、一昼夜の儀礼のうち森・冉が儀式儀礼内容を、陳・稲葉が民間伝承部分の多い口承パフォーマンス性の強い部分を担当し、それぞれ実際の撮影ビデオを見て細部について質問しつつ、台詞を文字にしていった。これにより、より具体的な素材を積み重ねることができ、メンバー、また法師の間でも白熱した議論がしばしば交わされた。この模様自体がまた貴重な資料である。儀礼実践者である法師が通常は意識していない観点をも再構成し、儀礼の内的な構造全体を明晰化ていくための、方法的基礎を確立することができたといえるだろう。しかしこれは膨大な作業で、本年度は衝儺活動の三分の一ほどを形にしたにすぎない。儀式そのものにも難解な点が多いが、口承伝承の研究については中国でも関心が高まりつつある。夏の調査中には道真県にて道真の属する遵義地区の行政関係者と研究者を集めて民間儀式儀礼保存についての座談会が開かれ、3月には国立中山大学非物質文化遺産研究センター主催のシンポジウムで意見を求められた。例年の国際儺戯学研討会は6月に江西省で開かれた。引き続き関連学会の動向をふまえつつ、基礎的な調査を積み重ねていきたい。 [研究協力者]稲畑耕一郎:早稲田大学文学学術院教授/稲葉明子:早稲田大学社会科学総合学術院非常勤講師:タク修明:貴州民族学院民族研究所教授/陳玉平:貴州民族学院中文系助教授/冉文玉:貴州省道真県宗教民族研究所研究員
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