本研究は、平成15年度から16年度に行った先の課題基盤C(一般)「中国西南の宗教演劇職能集団に伝承される道教およびシャーマニズム儀礼文献の研究」(課題番号15520063研究代表者:森由利亜)を発展的に継承する。先の課題では、中国貴州省道真県河口郷の法師たちによる一昼夜にわたる衝儺儀礼をビデオ収録し、初歩的な聞き取り調査を行って現地の法師団と研究者との協力体制を確立することに成功した。本研究では、このとき取材収録した衝儺儀礼に対象を絞り込み、同じ法師団にくりかえし取材をつづけることで、同儀礼の内容を正確に文字化し再構成することを企図した。 平成17年度は、調査メンバーを二班に分け、冉・森が僅式儀礼内容を、陳・稲葉が民間伝承部分の多い口承パフォーマンス性の強い部分を担当した。陳・稲葉班では実際の撮影ビデオを見て細部について質問しつつ、各科目の台詞を文字化していった。陳・稲葉組が効率的に儀礼の内容を文字化してゆくことに成功したのに対し、冉・森組は法師に対して儀礼に登場する神格や禁忌等について質問しながら調査したが非効率であり、問題を残した。 平成18年度以降の調査では、法師の記憶する儀礼内容をそのまま書き写すことに作業を特化した。その結果、全儀礼のほとんどすべての台詞に関する文字化とデジタル資料の構築という、当初の予想を超えた成果を得ることができた。ビデオ映像を法師たちとともに確認しながらその内容を再現するという方法が、法師たちの記憶をよどみなく引き出す上で効果的であり、また、調査研究者の恣意性を極度に低いレベルに抑えることに成功したとも言える。 今後このような正確な方法による全程文字化の調査が蓄積されることで、貴州のみならず広く中国で研究者たちが「衝儺」や「儺戯」などと総称する儀礼たちに、より確実な比較研究の基礎を提供することが可能となると期待される。
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