今年度は1.周寧県成村方言の最終チェック、2.福安市穆陽方言のデータ整理・分析、3.柘栄県富渓方言のデータ入力・分析を主に行った。咸村と穆陽の「詞彙対照」「字音対照」「例句対照」は完成。また周寧県成村方言についてはさらに50頁あまりの「周寧方音」の原稿が完成し、あと10点ほどの疑問点を残すところまで研究を進めた。この方言は音節末閉鎖音子音m/n/〓及びm/p/t/k/〓を完全に保存している点できわめて貴重な方言ではあるものの、その一方できわめて特異な韻母変化を経ていることも明らかとなった。例えば*iuがこの方言では調類および声母の種類に応じてiu、eu、eu、ouの四種に分岐している。このような韻母の複雑な分岐は〓語はおろか全中国語方言においてもまれであると思われる。福安穆陽方言についてはm/n/〓及びm/p/t/k/〓の区別がすでに失われていたのは遺憾であったが、*io〓>*i〓、*ia〓>*ei〓のような他の〓東語方言群には見られない韻母変化を確認したのは収穫といえる。また上声における韻母の変化に咸村と平行する点すなわち上声において主母音の高母音化が起こるがあり、このことは将来〓東語方言群の下位分類を再検討する際重大な意味を持つものと予想された。柘栄県富渓方言についてはデータ入力・分析は行ったのであるが、インフォーマントが体調不良とのことでチェック調査を行うことができなかった。この点については現地政府の鍾逢〓氏に新たなインフォーマントの紹介を依頼している。なお本年度二月には海外研究協力者の陳澤平教授と長時間にわたり、とりわけ〓東語方言群の下位分類に関する意見交換を行った。
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