当研究では城砦遺跡であるカレ=コファルニホン遺跡の発掘調査を実施している。この遺跡は、ウズベキスタンとタジキスタンの仏教遺跡をつなぐ要衝の地に位置し、時代的にもクシャーン期・トハラ期・ソグド期にわたる重要な遺跡である。かつて旧ソ連主導で行われた発掘調査において、この遺跡から方形仏堂が発見され、仏教的遺物が多数出土している。我々が実施した平成20年の発掘調査において同遺跡内でゾロアスター教遺構チャルタクが発見された。チャルタクとはゾロアスター教の方形拝殿で、中央に基壇を置く回廊形式の遺構である。チャルタク遺構の回廊からはゾロアスター教の儀式で用いられるハオマ(インドのソーマに相当)を搾る乳鉢や聖火を保つための聖火炉も出土し、ゾロアスター教信仰の実態が明らかとなった。発掘の記録として遺構の測量・図化を実施、現地スタッフにも作図指導をおこなった。この発見の意義は、方形仏堂の伝播ルート解明に関わるものである。日本に伝来した常行三昧堂は方形のプランを持つ。常行三昧は初期浄土教信仰を考える上で重要な修行方法である。研究代表者がこれまでに参加した調査中、西域南道の仏堂も方形プランであり、常行三昧の原初形態が確認されている。今回の発掘調査で方形仏堂と並行してゾロアスター教のチャルタクが存在していたことが明らかとなり、方形仏堂の起源についての重要な資料となると考えている。また、昨年度の発掘調査では、チャルタク付属工房から白毫相と肉髻相を備えた小仏像(ゾロアスター教神像)が出土した。仏像の特徴を備えたミフル神が拝火壇に手を差し伸べている姿は、仏教とゾロアスター教の重層信仰を象徴している。今年度の調査の一環として、シリコーンゴムによる複製作成を試み、より詳細な検討を行った。さらに、発掘試料のカーボン14検査を依頼し、遺跡の年代考察をも実施することができた。
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