研究課題
本研究の目的は、中米グアテマラ共和国のアグアテカ遺跡と周辺遺跡に住んだ支配層と農民の住居跡の発掘調査で出土した遺物の分析を通して、古典期マヤ人の日常生活と社会経済組織の基礎的研究を実施することである。本年度までに、全部で3万点以上の石器を分析した。さらに高倍率の金属顕微鏡を用いて3700点を越える石器の使用痕分析を行い、石器の機能面から手工業生産を解明することに重点を置いた。その成果によれば、黒曜石製石器の96%以上はグアテマラ高地のエル・チャヤル産、残りはグアテマラ高地のイシュテペケとサン・マルティン・ヒロテペケ、メキシコ高地のパチューカ、サラゴサ、ウカレオ産であった。書記を兼ねる工芸家や一部の農民が、主に実用品であった黒曜石製石刃を半専業的に生産した。地元産チャートから製作された石器もまた、主に実用品であった。各支配層世帯でもっとも多く製作されたのは、直接打撃法により剥離された剥片であった。書記を兼ねる工芸家をはじめとする少なくとも一部のアグアテカの宮廷人や農民が、こうした主に実用品であった石器を半専業的に生産した。さらにアグアテカの支配層書記を兼ねる工芸家は、戦士でもあった。古典期マヤ人の戦争において、石槍(両面調整尖頭器)は弓矢よりも重要な武器であった。その一部は、武器や狩猟具としてだけではなく、骨製品、貝製品、木製品などの美術品や手工業品の生産にも使用された万能ナイフでもあった。アグアテカの周辺遺跡では、武器や戦争の証拠は少ない。つまり、アグアテカ地域における古典期後期末の戦争は、主に支配層間の争いであった。一方、古典期マヤ支配層の女性は、美術品や工芸品の生産の一翼を担った。古典期マヤ支配層は、異なった状況や必要性に柔軟に対応して複数の社会的役割(書記、工芸家、戦士、天文観測、暦の計算、他の行政宗教な業務)を果たしたのである。
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