研究課題
基盤研究(B)
本研究は、エジプトの古都メンフィス西方の砂漠地帯において、早稲田大学調査隊によって発見されたダハシュール北遺跡の考古学調査である。当遺跡は、アマルナ時代というエジプト史上最も良く知られた政治・宗教の変革期の直後に、メンフィスが行政拠点として再興され、活発な造墓活動が行われたことを示している点で学史上極めて重要である。そこで本研究では、遺跡の南西端に位置し、新王国時代第20王朝と推測される神殿型平地墓(プタハ神のウアブ朗唱神官タの墓)周囲の800m^2ほどのエリアを対象として発掘を行い、編年の枠組みと埋葬の技法を明らかにしつつ、遺構と遺物の保存手法を策定することを課題とした。調査は、タの墓に隣接した墳墓から出土した中王国時代の埋葬資料の精査から開始され、以後は同様の埋葬の確認を軸にして進められた。その結果、研究対象地区から発掘された中王国時代の墳墓の多くは、南北の軸線を有し、特徴的な掘削技法も観察された。さらにこれらの墳墓からは、箱型の木棺やビール壺等の土器群のセット等の遺物も多数取り上げられた。一方、東西の軸線を有する墳墓からは、新王国時代に位置づけられる遺物がみつかり、ここでは中王国時代の墳墓が再利用されたことが窺われた。これらの調査成果によって、タの墓周辺に分布する新王国時代の墓域には、中王国時代の墓地が形成されていることが明らかとなった。この所見は、1997年にダハシュール北遺跡調査が開始されて以来、ダハシュール北遺跡を新王国時代の墓地としてのみ捉えてきた編年観を大きく塗り替えるものとなった。さらに、遺構・遺物の双方に対して精査な環境観察が行われ、厳しい自然環境の中で進行する劣化への対応策等保存科学の立場から基本的な指針も提言され、重要な成果となった。これらの成果は、和文・英文双方により、速報性をもってその成果が公開された。
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