研究概要 |
最終年度の調査として,前漢長安城・皇帝陵および関連の重要施設についての高精度測量調査を実施した。特に長安城南北中軸線(安門大街)の延長線上のラインと,高祖長陵と武帝茂陵を結ぶラインが直線道路があることを推定できたため,このライン上の道路遺構や祭祀施設などついて高精度測量調査を実施した。 また過去3年間と本年度の高精度測量調査の成果について,様々なGIS空間分析を実施した結果,以下のような重要な事柄が浮かび上がってきた。 1)都市プランは長安城だけに存在したのではなく,漢中平野全体に及ぶ都市計画が存在して,その中に長安城や皇帝陵ほかすべての施設を配置していた。 2)漢中平野の都市プランにおいて,南北直線道路は天文観測に基づいて正確な真北方位に配置していた。この道路の北端にある五星基壇は,五つの基壇を真南北・真東西の十字形に配列し,天文台の役割をもったと推定できた。 3)高祖長陵と武帝茂陵を結ぶラインは,真東西方位ではなく,咸陽原の南の崖のラインにそって,設置されていた。前漢皇帝陵は,この崖の直上の位置に配置し,南の平野からの皇帝陵への眺望を重視して,この配置をとったと推定できた。 4)前漢時代の漢中平野の都市計画から,前漢王朝の統治思想を読み取ることができた。すなわち漢の首都は,北は遊牧社会,南は四川・雲南地域,西は西域,東は中原・韓・倭に至るユーラシア世界の中心として意識され,初代皇帝劉邦の高祖長陵を,その十字路の中心に配置していた。このことから前漢首都の都市計画は,劉邦あるいはそのブレーンが構想して建設を開始したものと推定できた。
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