研究概要 |
以前より継続してきた調査研究、中でも韓国における脱北定着者の再教育施設(ハナウォン)でのフィールドワークや、すでに調査に応じてもらっている日韓両国のインフォーマントらの追跡調査によって、安住を模索するなかで新たに人と人との絆が国を越えて再生・構築されていくプロセスを、より多くのケースで跡付けることができた。国際的なネットワークに関する調査の中で、多くの脱北者が今の定住地である日本や韓国以外の第3国への亡命を希望していることが分かった。2004年9月にアメリカで北朝鮮人権法が執行されたことがその背景に、「アメリカン・ドリーム」を夢見ている韓国内の脱北者は大勢いる。狭き門であるアメリカへの亡命と留学の機会を得た人たちがどのようにネットワークを形成し、韓国や中国にいる親族との関係はどのようになっていくのかは注目に値する今後の課題である。日本国内の脱北者が150人ともいわれているが、この研究でインフォーマントになってくれた45パーセントの人の半数以上が日本以外のところに移住したいと答えている。さらにそのなかの半数の人たちは、処罰さえなければ北朝鮮に戻りたいと答え、日本での定住の難しさをもの語っている。さらに、中国や第3国にいる彼らのネットワークでその可能性を探ろうとする終わりなき「安住」への模索とも言える。 未解決問題として、日本滞在の脱北者のほとんどは自分の出自を隠して生活する人が多いため公表が難しい。インフォーマントのプライバシーの保護を優先することで,研究発表には時間を要する結果になる。 特筆するべきことは、韓国で創設された脱北者研究学会で日本の脱北者の状況を知らせ、学際的交流を図ったことである。その学会は、研究者のみならず実践で活躍しているカウンセラーや臨床心理士、福祉関係の人たちも参加している。これからのテーマにしていきたい、「脱北者の自助に向かっての支援のあり方」を模索していく上で何より心強い共同研究者に出会えたことは大きな収穫といえる。
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