研究概要 |
本研究は、拡大EUの境界線をめぐる民族・地域格差とヨーロッパの安全保障(アメリカの影響)について検討するものである。研究2年目に入った2006年度は、主に以下の3点から、研究を進めた。 1つは、欧州委員会(EU, European Comission)から受けたグラントを基礎に、ヨーロッパ研究所を立ち上げることにより、社会学者宮島孝(法政大学大学院)氏、ヨーロッパ経済学者田中素香氏(中央大学)、西洋法政史学者山内進氏(一橋大学)、社会主義法学者小森田秋夫氏(東京大学)らと共に、毎月の共同研究会を開いて、集中的に境界線の問題(欧州のフロンティア)、民族・マイノリティ・シチズンシップの問題について、研究を進めたことである。 それらを基礎に、小森田氏、田中素香氏と共同編纂で、『ヨーロッパの東方拡大』(岩波書店)を上梓した。 この書は、ポスト冷戦以降の拡大欧州の現状と、新加盟国(8+2)、とりわけその周辺諸国(トルコ、バルカン、ウクライナ、ロシア)における民族・社会問題、地域格差と安全保障の問題を、総勢19人の第1戦の研究者と共に、学術的・総合的に分析したものである。また、イタリアのパドゥアで、35カ国のEU研究者たちと共に拡大ヨーロッパのアイデンティティと市民性について共同研究を積み重ねた。これも昨年度末に、"Democracy, Nationalism and Citizenship in the Enlarged EU・ The Effect of Globalisation and Democratisation-"、Intercultural Dialogue and Citizenshipとしてまとめることができた。 第2は、一橋大学の文部科学省COEと、EUIJ(日本におけるEU研究センター)の客員研究員として、「ヨーロッパのフロンティア」の研究会を、年に数回、積み重ねたことである。そこでは、ドイツ人、イギリス人の法政治学者と共に、フロンティア、境界線の問題をより集中的・多角的に議論し検討することができた。とりわけイギリス人研究者から「地域を分断するのでなく、つなぐものとしての水」と言う逆転的発想を与えられたことは貴重であった。それは英国と大陸との関係にとどまらず、バルト海、地中海の経済圏や政治圏の再興、カリーニングラード問題の重要性の再検討に繋がった。また「分断する」ないし「紛争の場(Conflict Zone)」ものではなく、「つなぐもの」「出会いの場(Contact Zone)」としての境界線の再認識を促し、境界線認識の変容について、多くの学術的な重要な示唆を受けた。 『ヨーロッパのフロンティア』については、2007年度中に、共同研究所として、書籍を出版予定である。 第3に、欧州の境界線と安全保障をめぐるアメリカの影響、イラク戦争とのかかわりについては、世界国際学会(ISA)と共に共同研究を進めた。こうした研究は国内国際双方の研究ネットワークの賜物であり、心より感謝したい、
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