研究概要 |
(1)理論モデルの構築 2006-2007年度に行う英国における実地調査の理論的基礎研究として、本年度は、2本の論文をまとめた。第一に、非営利・協同セクターの活動分野と重なる部分が多い公的セクターについて、その存在理由を外部経済(公共財)がもたらす市場の失敗に求める理論的定式化を行った(Economic Systemsに近刊予定)。第二に、事業の開始にかかるサンク・コストが企業形態決定の一つの重要なファクターであるという認識に基づき、サンク・コストの存在が規模の経済、アドバース・セレクション、および過剰(過少)投資を引き起こす場合の比較効率的な企業形態について分析した(University of Hyogo Discussion Paper Seriesに収録)。 (2)実証研究の準備調査 (1)と同じく、2006-2007年度に行う本調査の準備調査として、教育・医療分野における英国非営利セクターの調査を行った。グレーター・ロンドンおよびサリー州にある学校および病院を抽出し、事前に入手した資料により財務状況を含む概要を調べた上で、現場を視察した。まず、学校に関しては、英国の義務教育は公立学校と私立学校に大別できる。公立学校の運営は全額公費(税金等)で賄われ、授業料は無料であるのに対し、私立学校は、一人年間7,500ポンド(約150万円)から30,000ポンド(約600万円)の授業料を徴収している。公立学校には純粋に税金のみで運営される学校のほか、母体の教会からの補助で支えられている教会学校など、非営利組織的色彩の強い学校がある。一般に、1クラスの規模は、公立学校で30人程度、私立学校で20人程度と言われるが、今回視察したサリー州の教会系公立学校は、1クラス25人程度で、指導は担任以外に副担任がつき授業を補助する体制をとり、きめ細かな指導が行われているように感じた。ただ、今回調査対象としたサリー州の教会系公立学校の生徒一人当たり年間支出額は2,000〜2,500ポンド(約40万円〜50万円)と比較的高く、これは州によりかなり違いがあるものと見られるため、これが英国の全般的な公的義務教育の状況を表しているとは考えるべきではないものと思われる。病院についても産業構造および財務構造は学校の状況と似ており、英国の医療は、税金で運営される国営のNational Health Service (NHS)と、患者からの診療報酬収入で成り立っ私営病院とからなる。NHS病院で診療を受けた場合、診療代は無料であるのに対し、私営病院における医療費は一般に極めて高額である。今回の準備調査を踏まえ、今後は、他の非営利セクター、および協同セクターへと調査対象を広げ、詳細な財務構造の調査を進めていきたいと考えている。
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