(1)実証研究 英国の非営利・協同セクターに関する実地調査を終え、昨年8月に帰国した。 第一に、一昨年度からはじめた英国の医療分野における企業形態の調査を引き続き進めた。英国の医療制度は、NHSと呼ばれる国営の医療制度と、一般に「プライベート」と呼ばれている民間営利企業による診療に大別される。本年度の付加価値としては、NHS病院の実地調査を若干広げたことと、NHSと民間営利病院との撮携診療について調べたことがあげられる。 第二に、ロンドンにおける住宅協同組合の調査を行った。住宅協同組合とは、住人が住宅に関する消費者協同組合を結成し、住宅の建設、維持・管理を行う仕組みである。住宅協同組合における資金調達の方法と財・サービスの取引形態は、私の研究テーマである「消費者協同組合とメンバーシップ市場に基づく経済システム」を考察していく上で重要な事例となっている。ひとつ、英国の住宅協同組合は、貧困層に対する福祉政策として進展してきたという歴史があり、この点において、現在の姿を自由な市場取引の結果として見るにはやや無理がある。この点については、今後、より純粋な市場取引が行われているフィンランドの住宅会社(Housing company)について調査を進めていく計画である。 (2)理論研究 一昨年11月に、滞在先のロンドン大学のセミナーにおいて、研究論文の報告を行った。そこで出た問題を検討した上で改訂稿を完成させ、昨年7月にロンドン大学のワーキング・ペーパーとして公表した。今後、住宅協同組合の調査結果を踏まえ、このワーキング・ペーパーの内容を拡張させる研究を開始する計画である。
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