長い争乱を経て2002年5月に独立した東ティモールでは、多くの子どもは親や家族の殺戮場面に遭遇させられることとなった。さらに、自分の生命が危険にさらされるような体験をした子どもも多くみられた。その中で、親を亡くし、あるいは親の育児放棄といったことにより、これまで過ごしてきたコミュニティを離れ、孤児院での生活を余儀なくさせられることとなった孤児も多数見られる。本研究の目的は、そういった過酷な体験が子どもの心理面、身体発達にどのような影響を与えるのか、心的外傷を負った子どもへの援助の可能性を探り、効果的な援助方法を検討することである。 首都のDili市内4箇所、東部地区2箇所、西部地区2箇所、南部地区2箇所、計10箇所の孤児院で、S-HTPテストと身体計測・健康調査を実施した。また、障害児学校1箇所ではBaumテストを実施した。 継続的調査の結果から、S-HTPに描かれるアイテム数は増加しているが、心的外傷を伺わせる内容、悲哀感、孤独感、無力感を示す内容には変化が見られない。また、身体発達状況においては若干の体重増加がみられる。健康面においては、未治療の歯が多く、医療面の乏しさの影響をうけていることが見いだされた。 今回は青少年期に非常に過酷な体験をし、成人となった男女5名に面接調査を実施した。現在もフラッシュバックに苦しめられていることが明らかとなった。心的外傷の治療の一つとして、過去の体験を語ることの重要性が示唆された。 研究成果報告として、2008年5月3日に一般人対象に「東ティモール孤児の戦乱による心的外傷について」と題した講演会と写真展を行った。
|