カンボジアのアンコール遺跡に関しては、バイヨン内回廊64箇所において1年2ヶ月間に渡たる砂岩材の含水率測定を行った。内回廊では、中央部分の基壇が高くなったところと両端の基壇が低くなったところが存在する。測定の結果、基壇の低い部分では降水量に連動して砂岩材の含水率が変化する傾向が見られた。それに対して、中央部分の基壇の高くなったところでは、背後に基壇が存在する低い位置と基壇の存在しない高い位置とでは挙動が異なり、後者では基壇の低い部分と同様に降水量と連動した含水率変化を示すが、前者では降水量にかかわらず年間を通して含水率が高く保たれ、かつ、変化が小さくなっている。これは、背後の基壇から雨水起源の水が徐々に供給されることに起因すると思われる。この水が原因となってレリーフの劣化をもたらしていると推測され、この水の遮断がレリーフの保存のための有効な対策であると考えられる。 また、アンコール遺跡においては、郊外にあるコー・ケルおよびコンポン・スヴァイのプリア・カーンにおいて石材調査を実施した。 タイのクメール遺跡においては、主要遺跡における石材劣化調査を行った。その結果、タイのクメール遺跡に使用されている砂岩材は、カンボジアのアンコール遺跡に使用されている砂岩材と比べて砂岩の原材料の風化度が高く、すなわち、石英含有量が高いことから劣化が生じ難く、このことがカンボジアのアンコール遺跡に比べて体のクメール遺跡では石材の劣化がそれほど顕著でないことの原因であると思われる。 インドネシアの中部ジャワ遺跡においては石材供給源を特定すべく、昨年度に引き続き周辺火山および河川において岩石の調査を行い、各遺跡の石材は周辺火山から供給されたことが明らかとなった。また、ボロブドゥール周辺の遺跡に関しては、従来言われていた周辺河川からの石材供給ではなく、ムラピ山から直接石材が供給されたことを明らかにした。
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