研究概要 |
完新世におけるカンボジア低地の古環境とメコンデルタの成立時期の解明のため,カンボジア低地において約30mのボーリング調査を実施し,以下のことが明らかとなった.沖積低地下には,完新統と更新統の少なくとも2つの海成層が存在し,両者は明瞭な不整合で境される.更新統の海成層には潮汐の影響を受けて形成された堆積構造がよく保存されており,今回の調査の結果,カンボジアで初めて更新統の海成層が確認された.完新世においては潮汐の影響を受けた沿岸低地から川の堆積物が,プノンペン周辺まで確認できた.約8千年前から6千年前においては,プノンペンの北方からベトナム国境まで,マングローブの広がる堆積環境が発達していた.ベトナム国境付近では,内湾の堆積物が分布していることから,8千年前頃には,国境から20-30kmほど海域が広がっていた.以上の事実から,メコンデルタの成立は,完新世初期の海水準の上昇期のおおよそ8千年前で,引き続く海水準の上昇に伴って,マングローブの低地が海岸線から約100km内陸まで広がっていたことが初めて明らかになった.またマングローブの堆積物は数mにも及ぶ厚い河成の氾濫原の堆積物で覆われており,特に過去1-2千年間の氾濫原堆積物の堆積速度が,それ以前に比べて大幅に増大している.このことは,メコン河流域の人間活動による土壌流出の結果である可能性があり,黄河,長江,紅河で見られた人間活動の影響が,メコン河流域まで及んでいる可能性が初めて示された.
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