本研究では世界最古の地層が広く分布するグリーンランド・イスア地域において、複数年にわたり、グラファイトを多量に含む地層の野外調査を行うことを主な目的とする。まず、平成17年、18年、19年の毎年、グリーンランド・イスア地域で、2〜3週間の現地調査および試料採集を行った。研究協力者であるコペンハーゲン大学ローシング教授が現地を案内し、ヘリコプターの手配など様々な面で献身的に協力していただいた。現地から採集した試料は350個にも及ぶ。現地では、研究の第一目標としていた、新しい地層を発見した。この地層には高濃度でグラファイトが含まれ、現地での空間分布を詳細に調査記載した。 グラファイトの地球化学的データ(安定同位体組成、それを含む岩石の化学組成など)を多量に集積することにより、(1)グラファイトは世界最古の生命の痕跡であること、(2)グラファイトは、今までイスアで報告例がないタイプの世界最古の海洋堆積物であることが判明した。更に電子顕微鏡を用いてグラファイトの組織やナノレベルでの組成を分析し、新しく発見されたグラファイトが特徴的な組織を有し、生物起源であることを裏付けるデータを得ることに成功した。 更に縞状鉄鉱層にもグラファイトが含まれていることを世界で初めて明らかにした。その縞状鉄鉱層の詳細な研究により、グラファイトを含む地層や縞状鉄鉱層が38億年前の海洋で、どのように堆積したか、世界で初めて明らかにした。 比較研究のため、調査を行ったカナダ・スティープロック地域では世界最古の酸素発生型光合成生物のバイオマーカー検出に成功した。またグラファイトに含まれる金属元素もバイオマーカーとして用いられることを、新たに提案することができた。また、この研究で得られた成果は教科書1冊科学雑誌1冊で取り上げ、教育・社会啓蒙に貢献してきている。(764字)
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