研究課題
今年度は、マレーシア国サラワク州にあるランビルヒルズ国立公園においてフタバガキ低地林の林冠木、約100本において叩き網・すくい網採集を実施し、そこに棲息するアリ類を含む節足動物類を採集した。これによって、前年度までに比較的詳細に把握されてきたアリ類の空間分布に加えて、植食者や捕食者、分解者を含む他の節足動物類の林冠部における空間分布をより詳細に把握することが可能になった。アリ植物となった着生のシダ類に営巣し、林冠部の広い空間になわばりを形成する攻撃性の強いアリ種(シリアゲアリ属の一種)が、フタバガキ科の樹種の林冠木に対する植食性昆虫の食害を強く抑制することが、前年度までの調査から示唆されていたが、追加の調査・実験をおこない、この効果が統計学的に有意であるかどうかを確認した。その結果を公表に向けて論文としてまとめた。また、このアリ種は、林冠木にのぼろうとするつる植物の伸張を抑制し、林冠木の幹から除去するはたらきをもつことが、つる植物の伸張範囲とこのアリ種の採餌範囲との排他的な分布から推定された。また、このアリ種の採餌域内に人為的に付着させた(前年度から継続している実験による)つる植物に対してもこのアリ種は激しく攻撃し、そのつる植物を枯らしてしまうことも明らかになった。こうした結果から、このアリ種は植食者に対する抑制効果だけではなく、つる植物の成長も強く抑制する効果をもっており、林冠木の生存・成長過程に大きな影響をもっていることが示された。林冠の生物群集に関するその他の知見を含め、林冠においてこれまでの調査で得られたすべての知見について公表すべく、順次、論文の作成作業にとりかかった(そのうちの一部は学術誌に掲載され、その他2編が査読審査中、さらに他の2編が投稿準備中である)。
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