研究概要 |
平成17年度に中国の内蒙古自治区,遼寧省,吉林省,河北省など,またモンゴル国のウランバートル周辺並びに西南部のゴビ砂漠,平成18年度に中国の河北省,甘粛省,新彊省など,またロシアのブリアチア共和国及び沿海州,平成19年度に中国の北京,雲南省,四川省,内蒙古自治区のモンゴル国境付近,河北省などにおいて,それぞれ現地の研究機関の協力を得てマオウ属植物Ephedra自生地の現地調査を行なった.その結果,139群落において計約370株のマオウ属植物を採集することができた。 帰国後の研究で,それらはEphedra sinica,E.dahulica,E.intermedia,E.equisetina,E.likiangensis,E.monosperma,E.przewarskii,E.minuta,E.gerardianaなどであると同定したが,不明種2分類群も確認された。またDNA塩基配列を解析した結果,E.sinicaとE.dahulicaは同一種と認識され,さらにE.sinicaと同一種であるとする説があるヨーロッパ産のE.distachyaと比較した結果,互いに別種であると判断された。また,発芽試験により,通常の海浜植物と同等の耐塩性があることが明らかになった。アルカロイド含量を調査した結果,雨量が少ない土地に生育する株ほど高含量であることが明らかになった。組織学的検討により,E.sinicaとE.intermediaを明確に識別する要素を見出したが,地方的に変異が多いことも明らかになった。また,代表者らの古文献調査により中国明代に薬用として良質品とされていたことが明らかになったE.likiangensisが,19年度の調査において現在では生育記録がない四川省茂県において,古文献の記載通り発見することができた。 本研究により,マオウ属植物は中国の四川省から北側のアルタイ山脈にかけての地域,またその西側地域で種が多様化していることが明らかになった。今後は,さらに中近東やヨーロッパを含む西域の標本や新大陸の標本を入手し,学際的に検討することにより,混乱している本属植物の分類体系を再構築する必要がある。
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