研究概要 |
カシナガの世界的な分布は,日本のほか,インド,インドネシア,ニューギニア,台湾とされてきた。これまで同一種として扱われてき紀伊半島,南九州,石垣島,台湾に分布する個体群は,カシナガの亜種ないし,別種と扱うのが適当と結論された。その理由は,遺伝解析においても,外部形態および,生殖器の形態においても,両者の間には明確な変異が認められ,両者が混在している,南九州においても,中間的な形質を示す個体が見られなかったことが根拠である。現在後藤が記載準備中である。海外のカシナガを加えたDNAによる系統解析の結果,日本のカシナガ(亜種を除く)の2つの個体群(本土個体群,沖縄個体群)は遺伝的距離がもっとも遠く,本土個体群一タイーインドネシアー沖縄個体群の並びであった(下図参照)。この結果は,本土個体群とタイ個体群が,比較的最近枝分かれしたことを示している。死亡率が約50%に達する病原菌と寄主との関係が永続的に続くことは不可能であり,ナラ菌とミズナラの関係は進化的に不安定な関係であることと,被害の広がりが,同心円状の典型的な侵入病害虫の拡大パターンを示していることから,研究代表者はナラ枯れの侵入病害虫説を提唱してきた。実際,現在進行中の科研費研究の結果でも,本土個体群は,地理的に近い沖縄個体群よりも,地理的に離れているタイの個体群と遺伝的に近縁であることを示す結果が得られている。この結果は,劇症型のナラ枯れを引き起こしているカシナガの本土個体群が近年タイから侵入したものであり,ミズナラと共進化の歴史が欠落したナラ菌Raffaeleaquercivoraが,ミズナラに高い死亡率を引き起こしているという可能性を示唆するものである。一方,カシナガは,雄が最初に寄主植物に先行した際に,同種他個体を誘引する集合フェロモンを出すことが知られ,主成分が他の研究グループによって発見されていた。しかし,この主成分の誘引力はあまり強くないことから,我々は,微量成分の共力作用について検討を行った。その結果,微量成分の中に,逆に主成分の誘引効果を完全に阻害する物質が含まれていることを発見した。今後は,忌避剤として利用が可能になる可能性がある。
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