研究概要 |
本研究では,ニュージーランドにおいて外来菌根菌ベニテングタケ(Amanita muscaria)が同地固有種であるナンキョクブナ科樹種にどのようにして適応,ナンキョクブナ林に侵入し,分布を拡大しているのかを明らかにするとともに,外来菌根菌の侵入により彼の地の自然生態系がどのような影響を受けているのかを明らかにしていることを目的としている。2005年から2006年に実施した現地調査の結果,ベニテングタケのナンキョクブナ林への侵入は,人為的影響を受けて生態的かく乱起きているところで顕著であることが明らかとなった。一方,ベンテングタケがニュージーランドの植林地で発見され長い時間が経過してからナンキョクブナ林で見いだされるようになったことから,ベンテングタケ集団に宿主域の異なる新たな集団が発生した可能性が指摘されている。そこで,2005年ならびに2006年にかけて採集されたベニテングタケの遺伝子解析ならびに系統分析を行った。ナンキョクブナ林ラジアータマツ植林地,カバノキ植林地,ナンキョクブナ原生林,ナンキョクブナ植栽下で採取されたベニテングタケ集団の遺伝子構成の解析から,ニュージーランドには北半球の複数の遺伝的地方集団に属する系統が移入しており,また,彼の地でこれら地方集団の雑種化が進んでいることが明らかになった。しかし,ナンキョクブナに生育するベニテングタケに共通した特異的な形質や遺伝的集団は認めらなかった。したがって,外来菌根菌ベニテングタケのナンキョクブナ林への侵入は,ニュージーランドにおいて宿主特異性の異なる新たなベニテングタケ集団が発生し,原生林に侵入したというよりも,原生林の人為的かく乱により生態系,おそらく菌根菌相が単純化し,開いたニッチにベニテングタケが侵入,共生するようになった可能性が高いものと結論づけられる。
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