本研究では、ベンガル地域での重症下痢症患者及から下痢原因菌の分離を試み、分離菌がどの抗菌薬にどの程度耐性化されているか、また薬剤耐性遺伝子の分布を、インテグロンを指標に患者及び環境中での分布状況について調べることを目的とした。さらに、我が国についても同様のことを調べ、インドとの結果を比較することを目的とした。 ベンガル地域での重症下痢症患者からコレラ菌を分離したところ、そのほとんどが稲葉型O1コレラ菌であった。分離菌のほとんどが多剤耐性であり、キノロン耐性も約50%存在した。インテグロンの関与はほとんど見られなかった。一方、fluvialisでは、約50%がクラス1インテグロン陽性で、20%でSXTエレメントが陽性であった。キノロン高度耐性に、排出ポンプが関わっていた。患者及び環境中でのインテグラーゼ遺伝子の存在を調べたところ、患者では1単独陽性と、1と2の両陽性が高率に、環境中、特に食肉では1及び2の遺伝子が高率に検出された。 一方、我が国の下痢症患者から分離した下痢原性大腸菌やカンピロバクターの薬剤感受性を調べたところ多剤耐性割合は低く、しかも、キノロン耐性菌は10%以下であった。環境中でのインテグラーゼ遺伝子を調べたところ、河川及び食肉からインテグラーゼ1及び2が検出された。特に牛肉からは1が鶏肉からは1と2の両方が高率に検出された。以上の結果より、インテグロンは我が国やベンガル地域においても環境及び食肉などに広く分布しているが、患者検体からはインドでの陽性率が高く、日本の患者由来ではほとんど検出されなかった。また、患者分離株の多剤耐性やキノロン耐性もベンガル地域での分離株の方がその割合が高かった。 薬剤耐性遺伝子は、環境中に広く分布しており、インドでは抗菌薬が処方箋なしでも容易に購入できるため、抗菌薬の多用によって患者に親和性の高い耐性菌が選択されてきている可能性が考えられた。
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