抗菌薬の多用によって従来、治療可能であった細菌感染症が、多剤耐性菌の出現によって臨床上大きな問題となっている。本研究では、ベンガル地域での重症下痢症患者及び環境から分離した下痢症原因菌がどの程度耐性化されているか、さらに、我が国での下痢症患者及び環境から分離された菌がどの程度耐性化しているか、さらに分離された薬剤耐性菌がどのような薬剤耐性遺伝子を保持しているか、特にインテグロンの関与を調べることを目的とした。 2006年にインドカルカッタで分離されたコレラ菌は、そのほとんどがO1コレラ菌であり、また、稲葉型がドミナントであった。各種抗菌薬の感受性を調べたところ、そのほとんどが多剤耐性であり、約90%以上がABPC、ST、FRM、NA、EMに耐性であった。CPFXに対して約50%が耐性であり、一方、TCに対しては93%が感受性であった。一部のNAGビブリオが、V.fluvialisであることが明らかとなり、多剤耐性のV.fluvialis19株について調べたところ、9株でクラス1インテグロン陽性で、4株でSXTエレメント陽性であった。全てのキノロン耐性株はその耐性化機構に排出ポンプが関わっていた。環境中でのインテグラーゼ遺伝子の存在を調べたところ、河川、池及び食肉から高率でインテグラーゼ1及び2の遺伝子が、また若干のSXTエレメントも検出された。特にバングラデシュでは、SXTエレメントにコードされている抗菌薬を分離培地に添加することによりO1コレラ菌の分離率が上昇した。 一方、我が国の下痢症患者から分離した下痢原性大腸菌やカンピロバクターの薬剤感受性を調べたところ多剤耐性の割合は低く、しかも、キノロン耐性菌は10%以下であった。環境中でのインテグラーゼ遺伝子を調べたところ、河川及び食肉からインテグラーゼ1及び2が検出されたが、SXTエレメントは検出されなかった。以上の結果より、インテグロンは我が国やベンガル地域においても環境及び食肉などに広く分布しているが、患者検体からはインドでの陽性率は高く日本の患者由来ではほとんど検出されなかった。また、患者分離株の多剤耐性やキノロン耐性もベンガル地域での分離株の方がその割合が高かった。このことは、インドでは抗菌薬が処方箋なしでも容易に購入できることに起因すると考えられた。
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