研究概要 |
1.平成19年9月にチタルム川流域で上流の近郊農業を生業とする集落C(標高1,500m前後)および中流のダム湖畔にあり養魚を生業とする集落B(標高600m)を訪問し,小学5-6年生児童(n=200)を対象にヘモグロビンおよび血中アセチルコリンエステラーゼ活性を現地で測定した。ヘモグロビン値には集落間差はなく,平均は13g/dL(n=200)であった。また,AChE活性についても集落間差はなく,4年前の測定(9-10月)で,さらに若齢の児童において見いだされたような集落間差は見いだせなかった。パジャジャラン大学において,心理学の専門家と,学童の発達検査を行うための打ち合わせを行った。 2.平成20年2月に,パジャジャラン大学の心理学チームとともにCおよびB村落を再び訪問し,5年前から同村落に居住し続けていて,過去の成長,農薬曝露に関するデータのある学童(小学校5,6年生に相当する。各村落それぞれ約80名ずつ計約160名)を対象としてウィスコンシン知能尺度-小児版試験(WISC)を実施した。同国では,インドネシア大学の研究者を中心としてWISCの標準化が行われた経緯があり,本調査においてもこの標準化された試験を用いている。同時に身体計測を行った。WISCの全体のスコアを両集落を通じて見るとIQ=84.1であり,インドネシアの標準的な学童よりやや低いレベルと判断された。言語IQとパフォーマンスIQのスコアはほぼ等しく,2つの領域の発達バランスには問題がないと判断された。現地の研究者は全体のIQスコアの低値は,刺激に乏しい環境に起因するとしている。身体計測,過去および現在の農薬あるいは重金属曝露との関連の分析,集落間差についての解析は,研究期間終了後も継続する予定である。
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