研究概要 |
ソロモン諸島国側との調整に時間がかかり,平成17年度の集中的な調査は平成18年2月に実施した。対象地区は東タシンボコ区の海岸沿いに位置する,バンバラ村を中心とした区域である。調査項目は,生体計測,尿検査,血圧,マラリア原虫の塗沫標本による検査であった。平行して,民族紛争時に就学前あるいはローティーンだった子供たちを対象としてPTSDの聞き取り調査を行った。同時に人口学的な聞き取り調査も実施した。 紛争時,東タシンボコ区住民の66%は住処を失っていたとする先行研究があるが,今回聞き取り調査をした結果,バンバラ村周辺7村落に1996年1月に居住していた187人のほとんどが,紛争中一時的に退避したり,近隣の村の人と結婚して移住した例はあったものの,そのまま東タシンボコ区に居住していることがわかった。民族紛争で直接死亡したのは1例だけであった。しかし,PTSDの徴候がある子供は決して少なくはなく,心理的影響は今なお大きいと考えられる観察結果も得た。また,東タシンボコ区と首都ホニアラの交通は1996年に比べるとひどく不便になっていた。 マラリア検査をした217人については,熱帯熱原虫陽性は29人,三日熱原虫陽性は39人であり,どちらかに感染していた原虫陽性割合は32%と,1995年11月の約20%より高かった。当時よりも雨が多いためにマラリアが流行している可能性はあるが,近くの診療所が破壊され,マラリア治療薬を入手しにくくなった影響もあると思われる。また,190人のスポット尿を検査した結果,陽性例は白血球12,亜硝酸塩6,タンパク12,潜血6,ケトン体2,ビリルビン1,ブドウ糖3であり,割合としては1995年11月と大差なかった。ただし,アルカリ尿の割合が増えており,購入食品を食べられなくなった人がいる可能性が示唆された。これらの結果は順次学会,論文等で公表予定である。
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