研究概要 |
平成18年度の調査は7月,9月,2月の3回実施した。7月の調査では子供のPTSDを中心に調べ,対象地区である東タシンボコの学校のほか,ホニアラ市の高校とマライタ島の高校でも調査を実施した。IES-RによってPTSD症状を比較したところ,紛争の影響を直接受けた場所と,紛争の影響ではじき出された人々が多数流入した場所に住んでいた子供はIES-Rスコアが地区ごとの平均でみて30点から34.5点と高く,ほとんど紛争の影響を受けていない子供のIES-Rスコアが平均16.5点であったのとは明らかな差があった。 9月は人口調査,尿検査,生体計測,マラリアACDに加え,紛争の影響,QOL,ソーシャル・キャピタルについてのインタビュー調査などを行なった。マラリアACDは2月にも行なった。対象村落群の総人口は1995年11月の210人から,2006年9月には290人へと急増していた。より強く民族紛争の影響を受けた村から親類縁者を頼って流入してきたケースが含まれるので注意が必要だが,どちらかといえば人口は増加傾向にあるといえる。尿検査では,前回までに比べ陽性者が減った傾向が認められた。また,2006年2月にアルカリ尿の人が増えていたのに比べると全体としてやや酸性に戻ったが,徐々に購入食品が入ってきた影響と思われる。紛争の影響の聞き取りでは,心理的にはほぼ全員が強い影響を受けていたが,物質的な影響は,商店経営者や養鶏業者などホニアラとの物流に依存する人ほど強い影響を受けた一方で,自給自足的な農業を生業としていた人たちにはあまり影響がなかったことがわかった。それ以上に特徴的だったのは,ソーシャル・キャピタルが紛争の影響をほとんど受けないということであった。 マラリアについては三日熱感染が主になってきたことと,きわめて狭い地域集積性があることが特徴的であった。 以上の結果は第47回日本熱帯医学会・第21回国際保健医療学会合同大会で発表済みであるが,より詳細な分析を行なって学術雑誌に投稿予定である。
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