研究概要 |
Ricketsは古代から記録されてきた病態であり、人類は、VitaminD含有量の高い食品摂取、乳製品の摂取量の調節、適度な紫外線暴露など、様々な環境適応によって深刻な病態を回避してきた。しかし、近年の内陸地方での急速な都市化は、人類の適応のバランスをくずしている可能性がある。Rickets様骨変形病態の発現には、食品摂取、生活様式、日照などの地理環境条件のみならず、VDR遺伝子多型が、Ricketsの発症を調節する遺伝的な役割を担っているかもしれない。本研究の目的は、(1)「モンゴルの子どものRicketsの発症に、ライフスタイル、地理環境条件のリスクに加え、特定のVDR遺伝子多型が相乗作用をもたらしているかどうか」、(2)「モンゴルの都市化に伴う文化変容がRickets発症に影響をもたらしているかどうか」を明らかにし、さらに、(3)中国大陸内陸部でのRicketsの高罹患地域に関する基礎データを蓄積することにある。 ウランバートル市S地区においてricketsの罹患歴のある7-10才の子ども73名(case群)とない子ども70名(control群)において、過去のswaddling習慣、脛骨皮質骨超音波伝播速度(TCSOS)、骨格変形、VDR遺伝子型(BsmI,ApaI,TaqI)を計測し、Rickets発症、TCSOSとの関係を分析した。ビタミンD剤の摂取、摂取食品、日照暴露時間、居住環境条件、ならびに社会経済的水準と、Ricketsの経過について分析を行った。 モンゴルの子どものRicketsの発症には、特定のVDR遺伝子多型の作用は認められなかった。またswaddlingの習慣もRickets発症と関連がなかった。従来ならば容易に入手できた乳製品の摂取が、都市生活者においては社会経済条件により制限をうけ、このことが、Rickets発症に影響をもたらしている可能性が示唆された。内陸地域におけるRicketsの疫学、子どもの骨特性の疫学、文化変容に伴う栄養摂取、補助食品摂取、医薬品の流通と購買行動、社会環境条件の変化、家族機能と子どもの健康増進に関わる基礎研究は、Ricketsの予防方策を総合的に検討するために必要と考えられた。
|