伝播遅延が短い低軌道(LEO : Low Earth Orbit)衛星ネットワークは、近い将来広域な移動体通信に大きな役割を果たすものとして期待されている。本研究では、インターネットと高い親和性を有する次世代LEO衛星ネットワークシステムの基盤技術に関する研究を行っている。具体的には次に述べる4つの基盤技術、すなわち(1)柔軟なモビリティマネージメント技術、(2)高い公平性と効率性を有する衛星ネットワークプロトコル技術、(3)不正攻撃からネットワークを守る衛星ネットワークセキュリティ技術、(4)高効率なハンドオーバー・ルーティング技術、について研究を行い世界に先駆けてこれら先進基盤技術の確立を目指す。 平成18年度では、前年度に提案した4つの基盤技術についてシミュレーションにより最適化を行った。さらに、システムのトータルな連携を図るためのソフトウェアを開発した。具体的には、LEO衛星ネットワークの複数の軌道面とそれらの間の通信を模擬できるように実験ネットワークを拡張し、多種多様なトラピックを生成可能な模擬ネットワーク環境を構築した。そして、開発したモビリティマネージメント技術について、多数のユーザのコネクションが存在する環境における性能評価を行い、ハンドオーバー回数及び遅延が低減されていることを実証した。また、LEO衛星ネットワークにおける伝送制御プロトコルと既存の伝送制御プロトコルの親和性について評価を行った。一般的にLEO衛星ネットワークは地上のネットワークに対しホップ間の物理的な距離が長いため、TCP/IPの転送において不利になると予想される。この問題を解決するために、TTL(Time To Live)カウンタを利用した送信ウインドウ制御手法を提案し、シミュレーションにより有効性を確認した。これらの成果はIEEEの論文誌や国際会議で採択されており、高い評価を得ている。
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