1.感情表現の韻律モデルのための分析及び定式化 感情の種類として、「喜び」「悲しみ」「怒り」「怖れ」の4つを取り上げ、それぞれの感情に関してその程度を3段階で表現した音声を前年度に収集した。これを用いて、まず基本周波数パターンの特徴の分析を行った。基本周波数パターンはその生成過程モデルに基づいてパラメータ化し、その特徴パラメータの感情の程度に対する変化を定式化した。次に、発話速度の感情に程度に対する変化を分析した。発話速度は文全体の発話速度の比と、文節単位での発話速度の比に着目して、大局的および局所的な変動に関して検討を行った。 導出ルールの有効性を確認するため、音声合成による検証実験を行った。感情の程度を表現するための韻律の各特徴の効果は、感情の種類により異なり、「喜び」「悲しみ」「怖れ」については高さの特徴によってよく表現できることを確認した。また、ルールを適用して高さの特徴を変化させた場合、「悲しみ」「怖れ」では感情の程度をよく表現できていることが確認できた。他の韻律的特徴である長さや強さの制御規則の導出までには至らなかったが、高さの制御によりいくつかの感情に対して有効な程度の表現が可能であることを示した。 2.心のモデルとそれに基づく感情・意図の推測 人間-機械間の対話に感情表現の処理を取り入れる際に、相手の感情を推定して自らの状況を定めそれを表現することにより、高度なコミュニケーション機能が実現する。そのために、心の工学的なモデルを提案した。心のモデルにおける知識表現を「自己の内的環境」「自己の外的環境」と「他者における自己の内的環境」「他者における自己の外的環境」の観点から定義し、感情は内的状況の一つのパラメータと位置づけた。また、心のモデルにおける他者認識のための処理手法として、合成による推測手法(Inference by Synthesis法)を考案した。
|