研究概要 |
本研究課題では,従来のシナプス結合重みの微妙な調整によるセンシティブな機能発現ではなく,生体に倣ったロバストな機能を実現するためのメカニズムについて,その計算アルゴリズムを明らかにすることを目的としている.本年度は,ミクロな神経情報の伝達特性について,昨年度提案した神経回路網モデルを用いた計算機シミュレーション結果を基に詳細に解析した.また並行して,マクロな脳機能の発現メカニズムについて,実験結果を基に新たな強化学習モデルを構築し詳細に解析した. 1.神経回路網モデルのロバストな情報伝達機構の数理的解析 昨年度提案したHodgkin-Huxleyモデルと同等な特徴を持つ,離散時間パルスニューロンモデルをパソコン上にインプリメントし,ノイズ敏感性による新結合の創出や,ノイズ耐性によるロバストな機能実現の可能性を,より詳細に解析・検証した.また,脳内ダイナミクスとパラメータ敏感性,および機能の階層構造との関連性に関しても解析した.その結果,提案モデルがノイズ耐性に優れるだけでなく,ある条件ではノイズを積極的に利用することで機能を高める,いわゆる確率共振現象を呈することを示した. 2.マクロな脳機能創発機構の実験的考察と強化学習モデルによる解析 (1)非ホロノミック系の手動制御特性に関する実験的解析 人間の手動制御系において,非ホロノミック拘束を有する制御対象の発見的制御則獲得過程を明らかにするための詳細な実験を行い,結果の生体システム論的な妥当性について検証した. (2)非ホロノミック手動制御系の強化学習モデル構築 実験結果を基に,手動制御系における制御則の獲得過程を説明可能な,新たな強化学習モデルを構築し,パソコン上にインプリメントした.シミュレーション結果より,提案モデルが人間と同じような発見的学習による創発的な機能形成(能力獲得)過程をたどることを示した.
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