本研究では知的主体としてのエージェントから構成されるマルチエージェント社会を想定し、エージェント間の社交的行動を計算論理によって形式化することを目的としている。研究一年目の平成17年度は、エージェント間の信念調整と信念結合の理論を構築した。具体的には、エージェントの知識ベースが解集合プログラミングで記述されたマルチエージェントシステムを考え、エージェント間の信念調整の問題を複数の論理プログラムの間で均衡した意味を持つ新しいプログラムを構成する問題として位置づけた。そこで、複数のプログラムが持つ全ての解集合を収集する寛容な調整(generous coordination)と、複数のプログラムが持つ共通の解集合を取り出す厳格な調整(rigorous coordination)の2つの枠組を導入し、それぞれの調整を実現するプログラムを元のプログラムから構成するためのプログラム変換を導入した。次に、マルチエージェントシステムにおけるエージェント間の信念結合の問題を複数の論理プログラムの解集合の結合の問題と位置づけた。そこで、複数の論理プログラムが持つ解集合に含まれる情報を包含するような新しい解集合を構成し、これらの解集合を宣言的意味として持つ新しいプログラムを自動合成する手法を導入した。また、得られた解集合の中から各エージェントが持つ強い信念を反映するものを選び出し、エージェント間の信念の調整を行う方法を示した。本研究は従来の単体エージェントを対象とした計算論理の手法を発展・拡張したものであり、既存の解集合プログラミングの計算手続きを使って実現することができる。また、本研究結果は解集合プログラミングにおけるプログラム合成技法としても重要である。
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