本研究では、マルチエージェントシステムにおけるエージェント間の合意形成の枠組を計算論理で形式化した。マルチエージェントシステムで、各エージェントが解集合プログラミングで記述された知識ベースを持ち、エージェントの信念が解集合によって表現されている状況を考える。そこでエージェント間の合意を、異なるプログラムが持つ解集合から共通の信念を取り出した結果として定義する。ここで、一つのプログラムは一般に複数の解集合を持つため、共通信念を取り出す方法として以下の2つを考えた。一つは単体のエージェントが持つ、各信念集合に含まれる共通信念を全てのエージェントから収集したものをエージェント間の合意とする方法(極小的合意)、もう一つは単体のエージェントが持つある信念集合に含まれる信念を全てのエージェントから収集したものをエージェント間の合意とする方法(極大的合意)である。極小的合意から懐疑的推論によって帰結される結果は、各プログラムから懐疑的推論によって帰結される結果の集合積と一致し、極大的合意から信用的推論によって帰結される結果は、各プログラムから信用的推論によって帰結される結果の集合積と一致する。このことは、マルチエージェント社会を構成するエージェントが懐疑的である場合は極小的合意を用い、信用的である場合は極大的合意を用いることが適当であることを示している。次に、こうした合意を表す解集合を宣言的意味として持つようなプログラムを元のプログラムから自動合成する方法を導入した。具体的には、合意を表す解集合に含まれる信念を帰結するルールを各エージェントのプログラムから抽出し、それらを統合するためのプログラム変換を導入した。こうして生成されたプログラムは、マルチエージェント社会において個々のエージェントの信念を反映する共有知識と考えられ、社会全体の意思決定ベースとして使うことが出来る。また、上述したプログラム合成は、既存の解集合プログラミングの計算手続きの上で実現可能である。
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