マルチエージェントシステムとして、アブダクティブ論理プログラミングで表現された知識ベースを持つエージェント社会を想定し、複数のエージェントが交渉を行い合意を形成するプロセスの計算論理を構築した。交渉の過程では一方のエージェントが要求を出し、それがそのまま受け入れられない場合、もう一方のエージェントはその要求を却下するか、対案を出すかの選択肢をとる。ここで、対案を出す場合、エージェントは自らの知識ベースを使って新しい提案を再構成する必要がある。エージェント間交渉を扱う従来研究では、相手の提案に対して取るべき行動をエージェントが持つ知識ベースに予め記述しておくか、交渉プロトコル内部に規定しておく手法をとっているものが多い。これに対して本研究では、提案に対する行動を予め準備しておくのではなく、相手の提案に対する対案を新たに構築するための推論過程の形式化を行った。具体的には、提案を自動的に再構成するために、アブダクションによる推論とプログラム変換による条件緩和の2つの方法を導入した。前者は相手の要求を条件付きで受け入れるための仮説を生成し、後者は相手の要求に含まれる制約を緩和する効果がある。本研究では、これらのプロセスを形式化するための推論メカニズムと交渉プロトコルを提案し、アブダクティブ論理プログラミングによる計算手法を導入した。
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