研究概要 |
実世界にて観測される種々の時系列情報を,滑らかなシステムからの出力として捉えるのではなく,ある事象が,「いつ」,「どこで」,「どの程度の大きさで」発生したかという時空間アナログ情報として捉えることにより,より自然な形で解析を行える場合がある.本研究では,従来の非線形力学系理論に基づく時系列解析技法を上記の捉え方に合う形に拡張することで,非線形モデリングの新しい枠組みを提案するものである. 具体的な本年度の研究項目として,以下の項目について検討した. 項目1 従来の非線形力学系理論に基づく時系列解析の技法を,時空間アナログ離散事象記述に適した枠組みへ拡張する. 項目2 情報量基準(MDL原理),リサンプリング技法を用いた観測対象の非線形性及び非線形モデリングの妥当性を定量化する. 項目3 この枠組みの有効性を確認するために,数理モデルを対象とした数値実験パラダイムを立案し,大規模なシミュレーションを実行する. 項目4 この枠組みにより記述可能と考えられる実データを解析し,その数理構造を解明する. これらの項目のうち,項目2は,項目1を達成する上からも特に重要となるため,優先的に取り組んだ.その結果,情報量基準と統計的リサンプリング技法を用いた観測対象の非線形性の定量化及び,非線形モデリングの妥当性の定量化基準の提案に成功している.これらの提案自体は,数理モデルを対象として確認した後,種々の実データへの適用を試みた. 上記の検討の際に,非線形モデリングそのものの予測精度の向上を図る必要があること,非線形モデリングの予測精度の評価について,従来より用いられてきた,自乗誤差最小化基準では不十分であることが明らかとなった.そこで,新しい非線形モデリング法の提案として,統計的解析法の分野でしばしば用いられているブートストラップ法を導入した予測技法を提案した.また,この提案技法に基づく予測点の分布の導出技法をも提案し,その性能を数理モデルに対する大量の数値実験により確認した. 平成17年度は,上記のように,主として,数理モデルから作成したデータに対して適用した.平成18年度は,平成17年度において行った数理モデルを中心とする解析により得た知見を基に,提案手法の適用する実現象へと範囲を広げて検討を行う予定である.
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