研究概要 |
画像のデジタル化と画像編集ソフトの広範な拡がりにともない,階調性,粒状性,鮮鋭性,色再現性といった画質特性を、目的に応じてコントロールすることが容易になった.特に興味深いことは,さまざまな視覚メディア(銀塩写真,映画,テレビ,など)が固有にもっている画質特性を,ノイズとしてデジタル画像に付加することにより,画像の質感や雰囲気を高める表現方法が多く見られることである.例えば,デジタルビデオカメラやCG技術によって作られた映像を,フィルム映画のような雰囲気に仕上げるフィルムルックと呼ばれる技術や,デジタル写真に粒状ノイズを付加することにより,銀塩写真に類似した質感をもたせる方法などが挙げられる.また,銀塩写真の退色を擬似的に模倣したセピア調色も同種の表現と考えることができる. このような画質表現が多く用いられる背景には,長期にわたって慣れ親しんできたメディアの画質を人々が好み,さらにはそこからなんらかの感性的な情報を読み取る傾向があることが考えられる. 本研究においては,それぞれの視覚メディアが特徴的にもつ画質のことをメディア画質と呼ぶ.例えば,銀塩写真の独特な粒状性や階調性,新聞の網点や彩度が低く色域の狭い色再現性,テレビの走査線,といったようなものがそれにあたる.これらは,自然の忠実な再現を目的とする場合には,それを妨げるノイズとなるが,画像表現の観点に立てば,豊かな感性情報をもった重要な表現要素としてとらえることができる.このメディア画質を,高度感性情報を考慮した画像設計の応用へとつなげることが本研究の目的である.そのためには,メディア画質と印象の関係を把握することが不可欠である. 今回の論文では,同じモチーフの画像を,異なった視覚メディアによって出力し,それぞれの画像に対して人が抱く印象をSD法(Semantic Differential method)によって調査した.その結果、(1)画像の印象を決める因子は「メリハリ感」,「クッキリ感」,「親近感」の三つである;(2)高齢者は若年者に比べてメディアによる印象の違いをあまり感じていない;(3)白黒写真から受ける印象が若年者と高齢者では異なる、という3つの興味深い結果を得た。
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