研究概要 |
労働組合と経営者の行う労使間交渉を支援するエージェント指向型の交渉システムを作成し,その有用性を検討した.交渉過程では互いに効用値を大きく下げることなく交渉結果に満足が得られるようなWin-Winの交渉を支援する計算機システムの実現を目指して,エージェントによる交渉過程をモデル化した.そして,エージェントの交渉戦略を進化計算手法である遺伝的プログラミングを用いて最適化して,よりよい解決案を導出することを試みた.交渉者の譲歩という行為には,望ましさや満足度,あるいはあいまいさや予感といったものから生じる感情的なものを含むことから,効用理論とファジィ制御によって譲歩過程を表現した.また外部環境要因のひとつとして世論の評価も考慮して,世論支持による影響をモデル化の要素に取り入れた.これに基づき,より現実的な交渉環境のもとで種々の条件でシミュレーションを行い,本提案手法の有効性を検討した.本提案手法の有効性を検討するため,実際の労使交渉事例に基づいて交渉シミュレーションを行った.その結果,自分にとってはあまり重要ではない属性で,相手が望む属性については譲歩し,自分の望む属性については交換条件として要求を通すことによって互いに満足度の高いWin-Winの交渉の実現の可能性が示唆された.また,両交渉エージェントの譲歩量が同程度になるなど,互いに納得のいく円満解決を支援しうる交渉戦略と妥結案を導くことができるものと考えられた.さらに,本提案手法の実行条件を変えてシミュレーションを行うとともに,本手法とは異なる方法や資源配分問題として捉えて解く方法など,種々の比較検討を行った結果から,本提案手法が労使交渉問題支援に適するものであると思われた.今後の課題としては,様々な事例を用いて交渉支援システムの汎用化を図るとともに,カオス性を応用することによって交渉モデルの柔軟性および複雑性などについて検討する予定である.
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