本研究はアメリカ公立図書館をめぐる裁判事件を網羅的に取り上げて、公立図書館の存在意義を図書館裁判を手がかりに検討する。 具体的には、以下の点を明らかにする。 a.公立図書館の使命や目的に関わる、裁判事例を網羅的に抽出する。 b.そうした各判例について、事件の経過、論点、判決の結論をまとめる。 c. (a)(b)を受けて、判例の流れを整理、分析して総合化する。 平成17年度は、これまでに蓄積してきた文献やデータを改めて整理し分析するとともに、新しい文献や判例の収集、およびデータの把握に努めた。そこではデータベースを用いて、公立図書館の目的にかかわる判例を網羅的に抽出した。抽出した判例は200件にたっするが、そこから公立図書館の目的を中心にした判例、あるいは公立図書館の目的に重要な示唆をあたえる意見が表明されている判例を取り出し、そうした判例数約30を確定した。そうした判例の流れをマクロにみると、教育機関としての公立図書館という位置づけから、表現の自由を保障する機関としての公立図書館へと、図書館の基本的な役割が変遷していることが、明らかになった。 本年度の業績としては、「アメリカ愛国者法と知的自由」がある。これは、ニューヨーク貿易センターへのテロ事件を契機に導入された「愛国者法」と、図書館との思想的関連をさぐったものである。また、単著『アメリカ公立図書館・人種隔離・アメリカ図書館協会』では、人種隔離にかかわる図書館裁判を含み、そうした裁判が持つ意味について実証的な記述を展開している。
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