本研究「アメリカ公立図書館の基本的性格をめぐる裁判事例の総合的研究」は2つの大きな部分からなり、おのおの以下である。 (1)公立図書館の基本的性格をめぐる裁判事例の研究。 (2)そうした裁判事例を押さえたのち、諸判決の分析による個別的、総合的研究の実施。 まず(1)「公立図書館の基本的性格をめぐる裁判事例の研究」については、Lexisデータベースなどでの検索と川崎のこれまでの研究の蓄積から、公立図書館の基本的性格に言及した裁判事例を網羅的に抽出した。本研究の報告書では各事例について個別的、客観的にまとめた。本研究のいわば第一部によって、この分野を研究する場合の基礎資料を構築でき、今後の研究の進展の基盤を形成できたといえる。 次に(2)「諸判決の分析による個別的、総合的研究の実施」については、(1)を総覧したのち、次の2つについて研究論文という形でまとめた。まずは現在のアメリカ公立図書館で関心が高まっている利用者用インターネット端末の利用をめぐっての諸裁判事例を取り上げた。こうした裁判は公立図書館の理念、使命、目的を検討する豊かな資料になっており、そうした諸判決をまとめ、判決の系譜と課題を提示した。いま一つは1990年代から蓄積されてきた公立図書館についての考え、すなわち公立図書館を制限的パブリック・フォーラムと把握する解釈に関係する。本研究では2000年以降の特徴ある諸裁判事件を取り上げ、制限的パブリック・フォーラムという捉え方を基礎にしながらも、ゆらぎが生じていることを明らかにした。
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