住民基本台帳カードなどの公的ICカードは、セキュリティでは高度な暗号技術や耐ダンパー性を備え、全国に発行体制を備える世界で最も進んだICカード基盤である。情報社会の安全と信頼を確保するために、ICカードは、すべての国民に対して多様な情報サービスへのアクセシビリティを確保するために必要不可欠な基盤である。しかし、その発行にあたっては、個人情報やプライバシー保護を主張する反対運動が起こり、発行を拒否する自治体もあったため、国民の公的ICカードに対する受容性は低くとどまっている。 本研究の目的は、住民基本台帳カードをはじめとした公的ICカードを国民が受容するための条件を明らかにすることにあり、その条件を整えるための課題を明らかにすることにより、公的ICカード政策の受容性を向上することに貢献することにある。 研究の結果、公的ICカードの普及は、自治体の工夫によって可能だが、自動交付機など役所に出向いてICカードを利用するかたちでは、その利用件数は低くとどまる。公的ICカードが、自宅や職場などから各種サービスを利用するためのセキュリティ基盤であることを知らせる政策を展開することが必要である。さらに自治体職員は、利便性の低さが公的ICカードの普及を阻害する要因であり、住民が個人情報に対して強い抵抗感はなかったと認識している。住民も、個人情報の利用について、性別、氏名、生年月日、メールアドレスの4情報は許容し、住民は、自らの意思による個人情報登録や配信情報の受信拒否、自己情報の修正、削除についての配慮がなされることで抵抗感がやわらぐことを明らかにした。公的ICカードは、管理体制整備の課題はあるが、民間や市町村が独自に、自宅や職場など日々の暮らしの中で利用する情報サービスを提供する手段として活用する方が、その政策受容性が向上する可能性がある。
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