本研究は、推論の言語的表現である「条件文」の理解過程を、心理実験により検証し、得られた性質を言語学の面から理論化することで、日常的な推論がどのような形で行われているのか、論理と日常推論の関係はどのようなものかを探求することを目的としている。 研究の初年度である昨年度は、柱となる関連性理論の計算論的形式化を行った。研究2年目となる本年度の研究は、この理論が人間の推論モデルとして妥当であるか否かを検討することに主眼を置いた。まず、論理学における含意・同値計算が、計算論的関連性理論からも導けることを数学的に検証した。具体的には、含意計算は前提のみを考慮した解釈と等価であり、同値計算は前提の否定フレームを含んだ解釈と等しいことを示した。さらに重要なことは、含意計算は、前提の否定フレームを含んだ場合でも、モダリティを含んだ状態(「XならばYかもしれない」)において等価になることが示された。以上の結果は、関連性に基づく推論においても、状況さえ整えば、論理と同一の判断に到達することを示している。 さらに、推論過程に関するいくつかの心理実験を行い、その特性を計算論的関連性理論で説明できるかを検討した。その結果、人間の推論過程は、特に「対偶条件」が絡む時に、論理からの逸脱が観察されること、またその原因が、フレームの完全解釈にあることを確かめ、計算論的関連性理論の妥当性を証明した。また、推論における各種バイアスやスキーマも関連性の計算から自然に発生することも分かった。 以上の研究に基づき、平成19年度は、言語表現におけるモダリテイ「〜である/〜にちがいない/〜だろう/〜かもしれない」と条件文形式(「〜すれば/〜すると/〜したなら」)が推論スキーマに与える影響を調査し、日常的推論と言語との関係を明確化することを目指す。
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