平成20年度は、17-19年度までの研究成果(1.確率論に基づく認知的関連性の計算論的定義、2.この定義式に基づくWason選択課題をはじめとした人間の演繹推論の分析、3.日本語の条件文理解の特徴分析)を踏まえ、日常推論の一般的特徴について議論を行った。特に重要な成果は、これまで提案されてきた因果推論のモデル(例えばDHモデルや研究代表者自身が平成17年度に提案したモデル)よりも高速に計算可能な認知的関連性の計算論的定義を与えたことである。従来の計算式と異なり、今回提案した定義式は部分情報のみからも計算可能であり、また特定の条件下(そもそも推論を行う必要のない完全解が与えられる状況)以外では十分な妥当性を持つ。また、この定義式はいくつかの心理実験で確認されてきた演繹推論の性質をよく表現できていると共に、心理学や言語学以外の分野にも応用可能であり、本年度は「改革派認識論」の妥当性を本モデルを用いて主張した。 以上の研究成果は、日本心理学会、日本認知科学会等で発表するとともに、研究論文の形で公表した。また、モデルの紹介および今後必要となる研究課題について日本心理学会のシンポジウムで解説を行ない、活発な議論を行うことができた。最後に、本年度は神戸松蔭女子大学において研究会合を開催して研究全体の総括を行ない、今後の研究成果発表についての検討会を行った。 この4ヶ年の研究によって、当初の目的である(a)日常推論が数学的な論理とは異なった関連性に基づく計算過程であること、(b)数学的な論理は日常推論の特殊な形式として理解できること、の2点を十分に解明できた。しかし、当初の目的に掲げた帰納推論・仮説推論の特性を含んだ日常推論の特徴はいくつかの点で依然不明のままとなってしまった。本年度提案した関連性に基づく日常推論の定義式はこの問題にも答えうる可能性を持つため、今後も本研究を継続していく予定である。
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