研究概要 |
本研究は広指向性のFM超音波のエコーから,3次元空間にある任意物体形状という空間情報に変換する新しい計算論を作り,それを実験的に実証することにある.これまで手法では狭指向性のエコーによる到達時間情報を用いるため空間をスキャンする必要があったのに対し,本研究はワンショットのFM超音波で3次元空間にある物体を認識する方法である.物体形状を表す音響イメージは「反射強度分布」とよばれるインパルス応答で,全周波数領域にわたる振幅と位相のスペクトルから構成されている.しかし,コウモリの発射するFM超音波は20〜120kHzと限られており,しかも聴覚神経系の時間分解能では位相情報をこの周波数領域で得ることは出来ない.反射してきたエコーはエミッションと「反射強度分布」のたたみ込みであり,したがって「反射強度分布」はエコーとエミッションから求めなくてはならない逆問題となる.すなわち,20〜120kHzという限られた周波数帯の振幅スペクトル情報から,全周波数帯の振幅スペクトルと位相スペクトルを得る逆問題であり不良設定問題になる.物体の振幅スペクトルは物体形状と方向に依存し,位相スペクトルは物体形状と距離と方向に依存する.17年度はこの不良設定問題を解くために「最小位相条件」と「連続性条件」と言う拘束条件を導入し,部分から全体スペクトルを復元することに成功した.また物体の表面を検出方法として,エミッションが円形の振動体から発擬されることから空間の広がりがベッセル関数となることから,幾何光学的反射を用いて面への最短距離とその方向を検出することに成功した.18年度は,シングルエミッションエコーによる物体形状知覚アルゴリズムの実装検証に必要な基盤技術として、最適模擬外耳の開発及び最適模擬外耳を用いた物体定位システムを構築し、球物体からのエコー情報から物体定位が高精度で行えることを明らかにした.
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