研究概要 |
近年、シグナル伝達系阻害剤のなかで最も注目されている分子標的薬の一つであるEpidermal growth cell receptor inhibitor(erlotinib)を用いた膵癌に対するテーラーメイド医療に向けたバイオマーカーの探索、および新しい分子標的薬併用療法の開発に向けて、下流シグナルのP13K/AktやERK/MAPK pathwayに影響を及ぼす他の因子の活性化に着目した。個々の症例のシグナルの活性化パターンの違いとerlotinibの有効性との関連を調べるため、膵癌細胞株(AsPC-1,BxPC-3,HPAC,MIAPaCa-2,PANC-1)におけるタンパク質プロファイリングパターンの網羅的解析を行った。その結果、erlotinib低感受性細胞株は高感受性細胞株と比較しP13K/AktやERK/MAPK pathwayに関与するFocal adhesion kinase(FAK)が高発現していることが判明した。次にsiRNAを導入してFAKの抑制実験を行い、erlotinib投与後の抗腫瘍効果をMTT assayにて測定し、またMAPK/ERKやP13K/AKT pathwayの活性化をWestern blotにて分析した。erlotinib高感受性株はerlotinib投与後AKTとMAPKが抑制されるにもかかわらず、低感受性株はerlotinib投与後もAKTとMAPKが活性化されていた。しかし、FAK siRNAの導入により、AKT、MAPKはともに抑制され、抗腫瘍効果の増強が認められた。これによりFAK発現の有無はerlotinibの有効性に関与し、erlotinib感受性を示す新たなバイオマーカーとなりうるほか、EGFRとFAKを同時にターゲットとした併用療法の可能性が示唆された。
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