研究課題
近年、シナプス後部にNMDA受容体しか持たない特殊なグルタミン酸作動性シナプスが発達期に様々な脳領域で見出されている。このシナプスは、後細胞が静止膜電位の状態ではNMDA受容体は活性化されずシナプス応答が生じないので、サイレントシナプスと呼ばれている。本研究課題では、このサイレントシナプスが脳の機能的発達に関与するかを検討するために、脳の中でも高い可塑性を有する大脳皮質視覚野を対象として実験をおこなった。ラット視覚野の切片標本を作成し、その2/3層錐体細胞からホール・セル記録を行った。電気刺激により誘発される興奮性シナプス電流を-80mVと+40mVの膜電位で記録することによりAMPA性とNMDA性成分を分離し、その比からサイレントシナプスの割合を推定した。開眼前、視覚反応可塑性の感受性期、成熟期、以上3時期のラットを用いて解析した結果、開眼前の視覚野では最もサイレントシナプスの割合が高く、加齢に伴って、その割合は減少した。しかし、生後直後からの暗室飼育により、視覚体験を経ずに成熟した動物の視覚野では、このような減少はみられず、成熟動物であるにもかかわらず多くのサイレントシナプスが維持されていた。視覚野では成熟するとその可塑性が低下するが、視覚体験がない動物では成熟しても高い可塑性が保持されることが知られている。視覚反応可塑性とサイレントシナプスは、同様な視覚体験依存性を示したため、サイレントシナプスは、神経活動に伴って視覚野の神経回路が可塑的に調整される過程に関与していると考えられる。
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Nature Neuroscience 8
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Cerebral Cortex (in press)