1)運動を観察することで同じ運動に関わるシステムの活動が誘発される(ミラーニューロン・システム)パラダイムを用いて、歩行の高次表象に関係する脳領域を検討した。健常被験者16名において、他者の歩行、立位、足踏み運動の観察条件や、周囲の情景があたかも歩いているときのように変化する条件のビデオ画像による視覚刺激を用いて実験を行った。平成18年度には、周囲の情景変化の観察がどの程度歩行の想像を誘発するかについて行動実験を行った。ビデオ刺激の速度を変化させ、被験者に想像する歩行速度で歩いてもらったところ、実際の歩行速度とビデオ上の歩行速度に有意な相関を認めた。歩行の観察と受動的歩行の想像によって、背側の運動前野の活動が共通に惹起され、歩行の高次表象に相当する可能性が示唆されている。 2)平成18年度までに、白質障害患者20名を対照として、シングルフォトン断層像による歩行時脳血流の評価を行った。視診による分類では歩行障害群が11名、非歩行障害群が9名で、両群の間に有意な歩行パラメーター(歩幅、歩隔、歩行速度、両脚支持期)の差を認めた。全体的な賦活パターンは以前にわれわれが報告したものと同様であったが、歩行障害群で補足運動野と視床の歩行時脳活動の低下を認めた。また、歩行障害群では、パーキンソン病で代償的脳活動の更新が見られる右運動前野の活動が亢進しており、同様の代償機序が働いているものと思われた。今後、歩行分析の結果を解析に組み込み、さらに詳細な結果の解釈を行っていく。
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