本研究は、脳機能画像法や電気生理学的測定などの非侵襲的脳活動測定法を組み合わせ、ヒト歩行制御の神経機構とその異常による歩行障害の病態生理を、高次運動制御の視点から明らかにすることを目的とするものである。まず、過去に行った歩行の脳機能画像研究を総括し、基底核-脳幹系と基底核-視床-皮質系の二重支配からなるヒト二足歩行の神経基盤モデルと、同モデルに基づいたパーキンソン病歩行の病態モデルを提案した。磁気共鳴機能画像により、他者の歩行運動を観察する課題と、歩行状態に準じた周囲の情景変化を観察しながら歩行を想像する課題を用いて、歩行に伴う視覚情報処理と歩行計画の脳内表現を明らかにした。シングルフォトン断層像による脳血流賦活試験を応用し、虚血性白質障害に伴うパーキンソン病様歩行障害の責任部位を明らかにした。また、本研究に資する脳機能画像法の技術の基盤作りの目的で、歩行以外の運動や想像、視覚、認知、言語などを対象とした脳機能画像研究、拡散テンソル画像を用いた患者研究、拡散強調画像を用いた新しい機能画像法の開発や、新しい課題設計や解析法の開発、磁気共鳴機能画像と経頭蓋磁気刺激-筋電図-脳波などの電気生理学的手法の統合にも力を注ぎ、多くの成果を上げた。脳機能画像を多角的に用いて、ヒト二足歩行に伴う活動を測定する本研究のアプローチは、臨床的にも、神経生理学的にも過去に例がないものである。現在急速に発展しつつある非侵襲的脳活動測定の方法論を、有機的に組み合わせていくことで、全く新しい知見が得られつつあり、今後も様々な枠組みのなかで研究を進めて行きたいと考えている。特に、神経リハビリテーションやBrain-Machine Interface技術と融合させることで、治療的介入との融合を実現していきたい。
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