本研究では、カルモデュリンキナーゼ(CaMK)の細胞内局在のメカニズムと神経機能の解明を目指し、以下の成果を挙げた。 (1)CaMKIδ分子の神経活動依存的細胞内局在の変化とその分子機構:初代海馬培養神経細胞にCaMKIδ遺伝子を導入し、グルタミン酸や脱分極刺激などのカルシウム刺激を加え、その細胞内局在の変化を検討した。その結果、カルシウム刺激により、核内局在を示す神経細胞が約2倍に増加した。さらに、CaMKIδ分子が、転写因子CREB(cAMP response element-binding protein)をリン酸化することにより、CaMKIδ分子が、神経活動依存性に核内に移行しCREBなどの転写因子のリン酸化を介した遺伝子発現の調節に関与している可能性が示唆された。 (2)CaMKIの樹状突起の形成における機能:CaMKIの4分子の神経発達過程における発現をin situハイブリダイゼーション法を用いて検討した結果、4つの分子は時空間的に相異なる発現様式を示すことを明らかにした。なかでも海馬に豊富に発現するβ2及びδ分子の海馬での発現は、生後発達とともに増加し、生後2から3週齢にピークを示した。この発現様式は海馬神経細胞の樹状突起の形成時期と一致することより、不活性型変異CaMKI遺伝子(DN-CaMKI)を初代海馬神経培養細胞に導入し、樹状突起の形成への影響を検討した。その結果、DN-CaMKIの発現により樹状突起の伸長が有意に抑制されることより、CaMKIが樹状突起の伸長に深く関与する可能性が考えられた。
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