研究概要 |
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、もともとベトナム帰還兵に見られる病態として米国において議論されたのが最初であるが、最近では、日本でも、阪神大震災や地下鉄サリン事件などの体験者にPTSD症状を示す例が多く報告され、社会問題にもなっている。PTSDの病態においては、行動的要素と自律神経性の要素の両方の機能が障害されるが、その神経学的基盤は確立されていない。 本研究では、PTSD動物モデルを用い、活性化された神経のネットワークを免疫組織化学や破壊実験などを併用して詳細に形態解析を行うことにより、PTSDの病態発現に関与する神経回路に関する形態的基盤を確立することを目的とした。 動物実験モデルとしては、Single Prolonged Stress (SPS)(連続する何種類かのストレス刺激の後、1週間の無ストレス期間をおく)を用い、神経細胞の活性化の指標としては、Fosタンパクの発現を用いた。SPSはPTSDに特徴的なグルココルチコイドのネガティブ・フィードバックの亢進をよく再現するという点で優れた動物モデルである。既に報告した(Otake and Nakamura,2002)急性ストレスを与えたラットと比較すると、扁桃体中心核、分界条床核、前交連後脚間質核(IPAC)においてはSPSラットにおいて特異的にFos発現がみられ、また視床下部室傍核ではFos発現は抑制されていた。また、前頭前皮質を破壊したラットにSPS刺激を与えた場合には、扁桃体中心核や分界条床核におけるFos発現は抑制され、視床下部室傍核でのFos発現は増加した。
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