研究概要 |
平成18年度以降ノシセプチン系での実験を終えて聴覚脳幹でのP2Xの発現パターンを観察してきた。P2XはATPのイオンチャンネル型受容体で,侵害性刺激の神経伝達に関与していると考えられている。神経生理学領域では,痛み刺激の研究分野でさまざまな知見が集積されつつある。一方聴覚系では,シグナルの性格と神経伝達物質との関連は全く考慮されていない現状である。我々は,聴覚中枢でどのように分布しているかを成熟ラットで調べた。P2X受容体には7つのサブファミリーが知られているが,RT-PCR法と免疫組織化学でP2X_1とP2X_4について下丘内での陽性細胞を検出し,報告していた。今回の研究では、聴覚脳幹におけるP2X_1の発現についてトレーサーとの二重蛍光染色や発生学的解析を用いてさらに詳しく調べた。その結果,1)P2X_1陽性の軸索線維と終末が下丘全体に分布している。その終末分布はランダムでTonotopical Laminaとは一致していない。2)P2X_1陽性の軸索線維は大脳皮質聴覚領由来のcortico-collicularな投射線維であると考えられる。3)かなりの数のP2X_1陽性ニューロンが下丘中心核に分布している。これらの陽性像では細胞質ではなく細胞膜が染色されているように観察される。これらの陽性細胞は7〜8週齢の段階では観られるが11週齢〜12週齢になると殆どの個体で消失する。4)多数の明瞭なP2X_1陽性ニューロンが内側台形体核に存在する。ここでは細胞膜だけでなく細胞質全体が染まった。以上の事実はP2X系の神経回路網が聴覚中枢にも存在し,聴覚侵害刺激情報処理モデルとしての有用性に繋がる可能性が強く示唆された。
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