孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病の異常型プリオン蛋白タイプ分類について、本年度病理検索を行った4症例のうち、1例でタイプ1とタイプ2の共存を認め、病理学的にも部位によりシナプス型プリオン蛋白沈着と空胞周囲型沈着の異なるパターンを示すなど、臨床病理学的多様性を示す症例を検討し得た。しかしながら、これまでにタイプ分類解析を行った22例の孤発性ヤコブ病のうち、共存例は1例(4.5%)のみで、英国国立CJDサーベイランス・ユニットで検討した18例中7例(38.9%)に比べ明らかに低い割合であった。遺伝子解析の結果、プリオン蛋白遺伝子129番多型は全例M/M型であった。英国での検討例では55.6%であり、従来の報告通り人種差がみられた。橋核病変の程度は症例ごとのばらつきが大きかったが、脳重量を指標とした病期の進行の程度とよく相関しており、病態の多様性を示している訳ではないと考えられた。日本の症例のタイプ分類が比較的均質で臨床病理学的にも多様性が目立たなかったことには、人種的背景の違いが影響を及ぼしている可能性が考えられた。 プロテアーゼ抵抗性異常プリオン蛋白のタイプ分類に関しては均質な結果しか得られなかったため、異常プリオン蛋白の高次構造の差に基づく新たな分類を試みる目的で、オリゴマー分子の解析を行った。正常プリオン蛋白はほぼ可溶性のモノマーの状態になるが、プリオン病脳では異常なプリオン蛋白がオリゴマーないしより高度な凝集体として存在する条件を決定し、簡便かつ安全に、短時間で凝集体を分離することが可能となった。近年、高度な凝集体よりもオリゴマーのほうが感染性や神経細胞毒性が強いことが判明しており、本法によるオリゴマー解析が有効な解析方法になると考えられる。今後継続してさらに細かな条件設定を検討し、症例数を増やして検討していく予定であり、2007年9月の国際学会などで発表予定である。
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