小脳プルキンエ細胞には登上線維と平行線維の2種類の興奮性シナプスがあり、前者は樹状突起の細胞体近位部に後者が樹状突起の遠位部にと、分節化した分布を呈している。分節化したシナプス分布を形成するにあたって、2種類の興奮性入力線維の間で樹状突起の支配領域をめぐる競争、すなわちシナプス競合が重要な役割を果たしていると仮定される。本研究ではその作用を探索した。 成体でのシナプス競合の作用を調べるため、興奮性入力線維に障害を加えた。昨年度は平行線維に障害を与えプルキンエ細胞のシナプス構築を解析したが、今年度は下オリーブ核を電気焼却することにより登上線維に障害を生じさせた。また、両者を組み合わせることで両線維に障害をおこさせる系をも確立した。それぞれの場合について、プルキンエ細胞上のシナプス構築について細胞体近位部から樹状突起先端まで調べた。 その結果、登上線維に障害を加えるとプルキンエ細胞樹状突起近位部に過剰な自由スパインが出現した。7日以降ではスパイン密度は障害前とほぼ一致するようになったが、平行線維シナプスは20%以下に留まり、大部分は自由スパインとして存在していた。それに対し、しかし、両者に障害を加えた場合に出現した、近位部における過剰な自由スパインは30日以降でも残存していた。これらのことから昨年度の結果を踏まえると、成体の各スパインは入力線維に選択性があり残存する同種の線維がシナプスを再形成しやすい傾向があることを示しており。また、登上線維は平行線維シナプスの適切な再形成に重要な役割を果たしていること示唆していた。 また、生後直後にMAMを腹腔内投与することで平行線維に障害を加え、一方、生後7日で電気焼却により細胞体周囲に分布している登上線維に障害を加えた。それぞれの場合、その後のプルキンエ細胞のシナプス構築の発達段階を、本年度観察したが、詳細は解析中である。
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